幽霊と私の年の差恋愛
バタバタと慌てたようにリビングを出ていく美波に、真糸はそっと苦笑を漏らした。
「あーあ。僕としたことが、本っ当に大人気ないよねぇ」
真糸はそっと、自身の唇に親指で触れる。そして先程の甘美な光景を思い出す。
「やばいね……。十も歳下の子にちょっかい出すなんて」
最初は「消毒だよ」などと言って、冗談めかしてキスの一つでもしてやれば満足出来ると思っていた。
それなのに、あられもない姿になった美波は、実年齢より幼く見える普段の彼女とは違った雰囲気を醸し出していた。
着痩せするのか、服の上からでは分からなかったふくよかな胸に、折れそうなほど細くくびれた腰。
しかし鳩尾に付けられた暴力の跡が、真糸の中で燻っていた怒りを増殖させた。
それまでの彼女の告白にも相当怒りを堪えていたのに、痣を見た瞬間、怒りが爆発してしまったのだ。
「参ったなぁ。ちょっとばかりご無沙汰だったからかなぁ?」
最後にそういう事があったのはいつだったか? などと思考を回らせれば、自ずと浮かんでくるのは一人の女性の顔だった。
「君は今、泣いてくれているのかな……」
優しげな笑みを浮かべる彼女は、どうしているだろうか。きっと、自分のために涙を流してくれたはずだ。
「はぁ」
真糸は一つ小さなため息を吐いて、ラグの上に寝転んだ。