幽霊と私の年の差恋愛
二人の出逢い
夜空には満天の星が広がっていたけれど、それが今の美波に感動を与えることはなかった。
「もう……ばっかみたい。どうなったって良いや」
冷たくて汚い雨ざらしのコンクリートから、ゆっくりと身体を起こす。
美波はかじかんだ手で、スマホを操作して地方の自宅へと電話をかけた。
『もしもし、安西ですが』
よそ行きの声で電話に出たのは母親だった。それは、娘の電話番号など登録していないということを証明していた。
「もしもし、私」
そう告げれば、電話の向こうの空気があからさまに冷えたのが分かった。
『……何、美波なの。用件は?』
面倒くさそうに、大して興味もなさそうに返されたその声は、先程より何トーンも低くなっていた。
「あははっ……」
予想通りの反応に、美波は思わず笑いながら一歩、また一歩とゆっくりコンクリートの縁まで歩みを進めた。
その先に開けた何もない空間は、宇宙か何か、未知への入口のように見えた。
「……何笑ってるの? 気持ち悪い。さっさと用件を言いなさいよ」
冷たい母親の言葉など、今の美波には何の攻撃にもならない。むしろ文字通り背中を押してくれる、心地いい響きにさえ感じた。
「私、死ぬから。バイバイ、お母さん」
母親からの返事は待たなかった。
美波は画面をスワイプして通話を終了す
ると、両手を広げて未知への入口に身を投げた。