詩集 どんな恋ならしてみたい?
【依頼-05 恋はうつろいやすいもの】
ツゲとサツキが早番で、朝から応対していた日。
相談所でも有名な常連さんがやってきた。
まずはサツキが相手する。
「よろしくお願いします」
「はぁ~~」いきなり依頼者は長い溜息つきまくる。
「今日は何があったんですか?」 カエデは慣れた様子
「車窓のきみ」
「つまり、
通勤電車で停車する駅で隣に停車して
逆方向に去っていく電車でいつも見かけてる
謎の彼氏に会いたいな、、とか?」
「どうしてそれを? ……見てました?」
「いやいや、あなたの事だから、想像するとこんなかなって」
「そんなに分かりやすいですか?」
「横断歩道のきみだっけ。通勤途中の交差点、
いつも反対側にいて、すれ違うのが愉しみで、、」
「過去の歴史ですよ、それ」
「ひと月も経ってませんけど」
「公園のきみ。
お昼休みに公園のベンチで一息ついている、
営業マンと思しき人」
「若い頃の思い出です」
「三ヶ月ほど前ですよ、それ」
「コーヒーショップのきみだっけ、あと、コンビニのきみ、
ゴミ捨て場のきみ、本屋のきみ、、」
「あ~、はいはい。わかりました。確かに、私は恋多き
女、と人は言うけれど、ついに人生最良の
人に会えたと思うのです」
「たしか前もそんな事、聞いた覚えがあるような」
「どきっ」
「ついに出会った前世で約束されたお方とか」
「ぎくっ」
「まあいです。お茶のおかわり頼みましょう」
「お願いします」
----
「ツゲくん、お茶をお願いね」
「はい」
奥から声がして、暫くするとノック音。
「どうぞ」
入ってきたのは二人分、紅茶と茶請けを持ってきた
ツゲだが彼をひと目見て、常連さんが叫ぶ声。
「相談所のきみ!!」
「へっ?」と驚くツゲだった。しかし紅茶は落とさずに
見事出し終え部屋を出て行こうとすると常連さん、
彼の手をとり詰め寄った。
「つかまえました。わがきみよ」
「何事ですか、サツキさん?」 ツゲはすっかり狼狽えて
サツキに助けを求めるが、サツキはニヤニヤするだけで
敢えて言葉を発しない。
「こんなところに新しい出会いが待っていたなんて」
常連さんは頬染めて目を潤ませて微笑んだ。
美人の笑顔の破壊力。しかし意外にしっかりと
ツゲは対応してみせる。
「それは私も驚きですが、続きはいずれ改めて」
「はい。わがきみ。わたくしもそれが良いかと思います」
相手はすっかり乗せられてうきうき顔で去っていく。
----
その日の午後。
「今日はびっくりしましたよ」
遅番勤務でやってきたカエデ相手に語るツゲ。
「なになに、おもろい事あった?」
「実はね」 サツキが耳打ちをすると、カエデも少しニヤついた。
「ツゲくん、相手は強者(つわもの)よ。
ま、せいぜい頑張って。骨は拾ってあげるから」
「なんか面白がってません? 私はどうもしませんが」
「彼女は美人で才女だし、悪い人でもないからさ
傷つけないであげてよね。常連さんでもある事だし」
「そんなことはしませんよ。それに美人ていったって
ウチのメンバーほどじゃない。慣れましたって、いい加減」
----
とはいえその後暫くは、続く彼女の攻勢に
振り回される事になる。その都度上手くいなしつつ
彼女の機嫌も損なわず、いつしかホントのカップルに
なっていくのは、また別の話の中で語りましょう。
ツゲとサツキが早番で、朝から応対していた日。
相談所でも有名な常連さんがやってきた。
まずはサツキが相手する。
「よろしくお願いします」
「はぁ~~」いきなり依頼者は長い溜息つきまくる。
「今日は何があったんですか?」 カエデは慣れた様子
「車窓のきみ」
「つまり、
通勤電車で停車する駅で隣に停車して
逆方向に去っていく電車でいつも見かけてる
謎の彼氏に会いたいな、、とか?」
「どうしてそれを? ……見てました?」
「いやいや、あなたの事だから、想像するとこんなかなって」
「そんなに分かりやすいですか?」
「横断歩道のきみだっけ。通勤途中の交差点、
いつも反対側にいて、すれ違うのが愉しみで、、」
「過去の歴史ですよ、それ」
「ひと月も経ってませんけど」
「公園のきみ。
お昼休みに公園のベンチで一息ついている、
営業マンと思しき人」
「若い頃の思い出です」
「三ヶ月ほど前ですよ、それ」
「コーヒーショップのきみだっけ、あと、コンビニのきみ、
ゴミ捨て場のきみ、本屋のきみ、、」
「あ~、はいはい。わかりました。確かに、私は恋多き
女、と人は言うけれど、ついに人生最良の
人に会えたと思うのです」
「たしか前もそんな事、聞いた覚えがあるような」
「どきっ」
「ついに出会った前世で約束されたお方とか」
「ぎくっ」
「まあいです。お茶のおかわり頼みましょう」
「お願いします」
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「ツゲくん、お茶をお願いね」
「はい」
奥から声がして、暫くするとノック音。
「どうぞ」
入ってきたのは二人分、紅茶と茶請けを持ってきた
ツゲだが彼をひと目見て、常連さんが叫ぶ声。
「相談所のきみ!!」
「へっ?」と驚くツゲだった。しかし紅茶は落とさずに
見事出し終え部屋を出て行こうとすると常連さん、
彼の手をとり詰め寄った。
「つかまえました。わがきみよ」
「何事ですか、サツキさん?」 ツゲはすっかり狼狽えて
サツキに助けを求めるが、サツキはニヤニヤするだけで
敢えて言葉を発しない。
「こんなところに新しい出会いが待っていたなんて」
常連さんは頬染めて目を潤ませて微笑んだ。
美人の笑顔の破壊力。しかし意外にしっかりと
ツゲは対応してみせる。
「それは私も驚きですが、続きはいずれ改めて」
「はい。わがきみ。わたくしもそれが良いかと思います」
相手はすっかり乗せられてうきうき顔で去っていく。
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その日の午後。
「今日はびっくりしましたよ」
遅番勤務でやってきたカエデ相手に語るツゲ。
「なになに、おもろい事あった?」
「実はね」 サツキが耳打ちをすると、カエデも少しニヤついた。
「ツゲくん、相手は強者(つわもの)よ。
ま、せいぜい頑張って。骨は拾ってあげるから」
「なんか面白がってません? 私はどうもしませんが」
「彼女は美人で才女だし、悪い人でもないからさ
傷つけないであげてよね。常連さんでもある事だし」
「そんなことはしませんよ。それに美人ていったって
ウチのメンバーほどじゃない。慣れましたって、いい加減」
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とはいえその後暫くは、続く彼女の攻勢に
振り回される事になる。その都度上手くいなしつつ
彼女の機嫌も損なわず、いつしかホントのカップルに
なっていくのは、また別の話の中で語りましょう。