詩集  どんな恋ならしてみたい?
【依頼-01 誰がいちばん愛してる?】

「わかりました。すぐ行きます」
「じゃあね、メイ」
シルクはそのまま奥へ行き、メイは通路を左へと
曲がった先が応接室。中には一人の依頼人。
年格好は二十代前半位の女性だが、
何やら憔悴仕切ってて、いかにも思い詰めたよう。
「お待たせしました。」 会釈して依頼人の様子を見る。
「先生、わたし、もう駄目ですぅ」
いきなり向ける涙顔。見ればかなりの美人さん。
既に相当泣きはらし、赤い目元が痛々しい。
「先ずは、一杯お茶飲んで落ち着いてから話しましょう」

−−−−

この子は近くのオフィスの子。地元住まいで、以前から
度々ここには来てるけど、こんなに弱り果てた顔、

初めて見たけど大丈夫? 思っていると美人さん、
こちらを向いて語り出す。

「私以上にあの人を幸せに出来る人なんて
 私以外にいません!だから、、」
だいたい事情は飲み込めた。念のために、聞いとくか。
「妻子持ち?」
「はいっ」
「親切にでもされたかな?」
「はいっ」
やけに元気が良いけれど、これもよくある勘違い。
脳内立卦(※1)は「震為雷」。放っておくと面倒だ。
てっとりばやく片付けよう。

「でも向こうはいつもそっけない」
「ええ」
少しトーンが落ちた様。
「仕事と家庭に縛られて、人生棒に振っている」
「はい。
 今度は私が支えてあげないと、余りに彼がかわいそう」

じっと涙ぐんでいる。すっかり自分に酔ってるわ。
現実(リアル)に戻すと恨まれる。でもまあこれも仕事がら、
よくあることのひとつだし、一丁やってやりますか。

「惜しいわね」
「何がです?」
「それはあなたの出会いじゃない。風邪ひいた様なものなのよ」
「そんなこと」
「思いが強い。それはいい。でも、向ける相手が違ってる」
「ありえません」
「それであなたはいつだって、辛い思いをしてるじゃない?」
「あうぅ」

意外と利いたあてずっぽ。このままずんずん押し切ろう。

「あなたは若い。華もある。ここはひとつの通過点。
 輝く未来を目指しなさい」
「先生はわかってくださると思っていたのに、ひどいです」
「ひどくて結構。何度でも言ってあげるわ。諦めて」

この後さんざん泣かれたが、結局見事に撃沈し、
ふさぎ込むこと数週間。新たな恋を拾いあげ
目下攻略作戦中。

こちら恋愛相談所。なんでもかんでも依頼者の
欲望通すわけじゃない。

それが吉(※2)なら躊躇わず、時には恋をやめさせる。

----
(※1)梅花心易でいう無筮立卦のことです。
易は通常筮(ぜい)といって道具を使って卦を立てます。
梅花心易は筮もしますが無筮立卦といって道具無しで
卦を立てる事も出来ます。方法は色々ありますが、
象徴から卦を起こす、何か数字を得て、その
数から卦を起こす、等の方法があります。

(※2)漢字の吉とは容器一杯になるほど収穫を入れて蓋
をした状態。繁体に凶とは容器が空っぽで✕がついた
状態。つまり、本人にとって思い通りになるか否かで
はなく、人間形成にプラスかマイナスかを判断した結
果です。
< 4 / 10 >

この作品をシェア

pagetop