詩集 どんな恋ならしてみたい?
【新人くんが来たよ】
朝八時。
今朝はメイさんからメール。研修終えた新人が
配属されてくるという。私はツバキ。新人を
教育しろと言われたが正直言って面倒だ。
若い子たちに押し付けてサッサと帰ってしまいたい。
三十路も半ばになったんだ。もっと楽しくやらなくちゃ。
−−−−
やってきたのはイケメンの若い男だ。何故だろう。
客層からすりゃそこそこは人気が出そうな気もするが
前にもこんな事があり、多少は依頼者も増えた。
もっとたくさん増えたのが、ちょっかい出す奴、ストーカー。
誰が出したかわからないDM、ギフト、ワラ人形。
無言電話に髪の毛まで、意味の不明な手紙など。
その上待ち伏せまでされて、結局故郷に帰ったわ。
この子も負けず劣らずの美男子だけど問題は
過酷な定めを生き抜けるメンタリティーを持ってるか。
ツバキが思案しているとイケメンくんが切り出した。
「あのー、私は今日からこちらに配属されました
ツゲという者ですけど、、」
「私はツバキ。聞いてるわ。ん?」
何故かおどおどしているが、いくら新人だからって
いささかひどくないかしら?
「すすすみません。実は女の人が苦手でして」
「それでよく入社できたわね」
「システム部門希望だったのですが」
「そのイケメンが祟ったと」
「いやその」
彼は男ばっかりの環境で育ったため
女相手の振る舞いが全くわからないという。
珍獣でもあるまいし、普通にしてりゃいいんだよ、
と言うと、普通と言われましても、と言って固まった。
メイさん、面白がってるな、これは。
「わかると思うがこの職場、相談員も事務員も
お偉いさんも女だよ。お客も女ばかりだし」
「存じております。その事は」
「それにしてもだ。よくそれで来る気になったね。
呆れるよ」
「始める前から逃げる気はこれっぽっちもありません」
「よく言った。それだけ覚悟があるのなら
思う存分やってみな。私も応援するからさ」
「ありがとうございます」
「いきなり現場も大変だ。初日は見学するといい。
誰かに案内させるから」
「お手数おかけ致します」
「今日の早番はと、、ふうむ。あの子がいたか、丁度いい」
「あの子、ですか?」
「来たら分かるわ。でもあなた、苦手と言うけど私から
見たら普通に話せてる、と思うけど」
「ツバキさんがいい人だから、です」
「お世辞言っても無駄よ無駄。これからビシバシいくからね」
「お手やわらかにお願いします」
八時二十五分。
若い女性がやってきた。今年二年目、カエデちゃん。
髪は黒くてストレート。肩より下まで伸ばしてて、
吸い込まれそうな眼をしてる。彼女は去年の新人だ。
「おはようございますぅ。って、このヒト、新人くん?」
「ツゲです。宜しくお願い致します」
「私はカエデと申します。よろしくね」
微笑む姿が愛らしい。
「カエデちゃん、あとでこの子に構内を
案内してあげてくれる?」
「了解ですぅ」
「宜しくお願い致します、カエデ先輩」
「せんぱい? あーそうか。ワタシ、センッパイ。へへへ」
「今まで一番ぺーぺーで随分肩身も狭かった。
でもでも、今日から私にも後輩くんが出来たんだ」
何やら妙に嬉しそう。
「お姉さんにまっかせなさいっ」
「はいっ。どこへなりともついていきます」
早速二人はいそいそと所内めぐりに旅立った。
これは案外良いコンビになるかもね、なんて思いつつ、
店を開けると依頼者が入室してきて待ち合いが
あっという間に満席だ。皆さん予約をしてるのに
何でこんなに急いでる? 順番だって変わらない。
業務開始時刻まであと二十分はある。
八時四十五分。
我らがメイさんのお出ましだ。
「あら、新人くんは?」
「カエデちゃんが案内中」
「なるほど」
「メイさん、余り若い子に、苦労をかけちゃ駄目ですよ」
「ちょっと頼まれちゃったのよ。
カタブツだから何とかしてくれって」
「ごくごく普通の好青年。でしたよ」
「そう?
それならそれでいいけどさ」
「ま、ここに来たからは楽しくやっていきましょう」
「いやいや、そうはいくまいて。あんな上玉、連中(いらいしゃ)が
放っておくワケないでしょう。世間はそんなに甘くない」
「私は新人くんの話をしてるんですが」
「私もよ」
やっぱりメイさん上機嫌。楽しんでるな、わかるけど。
−−−−
その後戻ったカエデちゃん。新人くんを引き連れて
すっかり姉さんぶっていた。意外と面倒見がいいな。
これからしばらくこの子らも大変な時を過ごすだろう。
みんなもいるし、逞しく育って欲しいと思うだけ。
十四時丁度。これから丁度十五分、
申し送りをするために早番遅番同席し、
オンライン会議をやっている。
新人くんの紹介もそこできちんと行なった。
彼は卒なく挨拶し、皆から拍手を貰ってた。
この子ホントに女性慣れしていないとは思えない。
しかし程なく真実が明るみに出る事になる。
朝八時。
今朝はメイさんからメール。研修終えた新人が
配属されてくるという。私はツバキ。新人を
教育しろと言われたが正直言って面倒だ。
若い子たちに押し付けてサッサと帰ってしまいたい。
三十路も半ばになったんだ。もっと楽しくやらなくちゃ。
−−−−
やってきたのはイケメンの若い男だ。何故だろう。
客層からすりゃそこそこは人気が出そうな気もするが
前にもこんな事があり、多少は依頼者も増えた。
もっとたくさん増えたのが、ちょっかい出す奴、ストーカー。
誰が出したかわからないDM、ギフト、ワラ人形。
無言電話に髪の毛まで、意味の不明な手紙など。
その上待ち伏せまでされて、結局故郷に帰ったわ。
この子も負けず劣らずの美男子だけど問題は
過酷な定めを生き抜けるメンタリティーを持ってるか。
ツバキが思案しているとイケメンくんが切り出した。
「あのー、私は今日からこちらに配属されました
ツゲという者ですけど、、」
「私はツバキ。聞いてるわ。ん?」
何故かおどおどしているが、いくら新人だからって
いささかひどくないかしら?
「すすすみません。実は女の人が苦手でして」
「それでよく入社できたわね」
「システム部門希望だったのですが」
「そのイケメンが祟ったと」
「いやその」
彼は男ばっかりの環境で育ったため
女相手の振る舞いが全くわからないという。
珍獣でもあるまいし、普通にしてりゃいいんだよ、
と言うと、普通と言われましても、と言って固まった。
メイさん、面白がってるな、これは。
「わかると思うがこの職場、相談員も事務員も
お偉いさんも女だよ。お客も女ばかりだし」
「存じております。その事は」
「それにしてもだ。よくそれで来る気になったね。
呆れるよ」
「始める前から逃げる気はこれっぽっちもありません」
「よく言った。それだけ覚悟があるのなら
思う存分やってみな。私も応援するからさ」
「ありがとうございます」
「いきなり現場も大変だ。初日は見学するといい。
誰かに案内させるから」
「お手数おかけ致します」
「今日の早番はと、、ふうむ。あの子がいたか、丁度いい」
「あの子、ですか?」
「来たら分かるわ。でもあなた、苦手と言うけど私から
見たら普通に話せてる、と思うけど」
「ツバキさんがいい人だから、です」
「お世辞言っても無駄よ無駄。これからビシバシいくからね」
「お手やわらかにお願いします」
八時二十五分。
若い女性がやってきた。今年二年目、カエデちゃん。
髪は黒くてストレート。肩より下まで伸ばしてて、
吸い込まれそうな眼をしてる。彼女は去年の新人だ。
「おはようございますぅ。って、このヒト、新人くん?」
「ツゲです。宜しくお願い致します」
「私はカエデと申します。よろしくね」
微笑む姿が愛らしい。
「カエデちゃん、あとでこの子に構内を
案内してあげてくれる?」
「了解ですぅ」
「宜しくお願い致します、カエデ先輩」
「せんぱい? あーそうか。ワタシ、センッパイ。へへへ」
「今まで一番ぺーぺーで随分肩身も狭かった。
でもでも、今日から私にも後輩くんが出来たんだ」
何やら妙に嬉しそう。
「お姉さんにまっかせなさいっ」
「はいっ。どこへなりともついていきます」
早速二人はいそいそと所内めぐりに旅立った。
これは案外良いコンビになるかもね、なんて思いつつ、
店を開けると依頼者が入室してきて待ち合いが
あっという間に満席だ。皆さん予約をしてるのに
何でこんなに急いでる? 順番だって変わらない。
業務開始時刻まであと二十分はある。
八時四十五分。
我らがメイさんのお出ましだ。
「あら、新人くんは?」
「カエデちゃんが案内中」
「なるほど」
「メイさん、余り若い子に、苦労をかけちゃ駄目ですよ」
「ちょっと頼まれちゃったのよ。
カタブツだから何とかしてくれって」
「ごくごく普通の好青年。でしたよ」
「そう?
それならそれでいいけどさ」
「ま、ここに来たからは楽しくやっていきましょう」
「いやいや、そうはいくまいて。あんな上玉、連中(いらいしゃ)が
放っておくワケないでしょう。世間はそんなに甘くない」
「私は新人くんの話をしてるんですが」
「私もよ」
やっぱりメイさん上機嫌。楽しんでるな、わかるけど。
−−−−
その後戻ったカエデちゃん。新人くんを引き連れて
すっかり姉さんぶっていた。意外と面倒見がいいな。
これからしばらくこの子らも大変な時を過ごすだろう。
みんなもいるし、逞しく育って欲しいと思うだけ。
十四時丁度。これから丁度十五分、
申し送りをするために早番遅番同席し、
オンライン会議をやっている。
新人くんの紹介もそこできちんと行なった。
彼は卒なく挨拶し、皆から拍手を貰ってた。
この子ホントに女性慣れしていないとは思えない。
しかし程なく真実が明るみに出る事になる。