詩集 どんな恋ならしてみたい?
【依頼-03 恋する季節はいつ来るの?】
「おはよう」
サツキに声をかけたのは、同期で入社したセリナ。
結婚したのも同時期で出産したのも同じ頃。
家族ぐるみの付き合いが随分前から続いてる。
「昨日は新人くんを見た」
「どうだった?」
「可愛かった。」
「あんあ事があったのによくあんな子が採れたよね」
「メイさん得意のゴリ押しと思ってたけど違うみたい」
「女嫌いを治せって頼まれたとか何とか」
「そうだったの?」
「とてもそうは見えないわ」
「そうなの?」
「普通にイケメン好青年ってね」
「まぁそのうちわかるでしょ」
----
その日の業務は暇だった。ここは民間企業だが
我が社が困る事はない。もともと無料の相談料。
会社の実入りは契約で、ステーションから貰ってる。
完全予約の相談所。この日はキャンセル相次いで
予定は虫食い状態だ。いつもはぎっしり詰まってて
息つく暇もない位。こういう事は珍しい。
時刻は十四時二十分。予約が入っている時間。
「クライアントのお出ましよ」 サツキはちょっと嬉しそう。
歳の頃なら二十代前半位、と値踏みする。
髪は金髪碧眼で典型的な別嬪さん。
「私、恋がしたいんです」
いきなり切り出す依頼者に、サツキは少し驚いた。
「すっれば~??」と言いたいころだが、
それを堪らえて返事する。
「相手をおさがしで?」
「いつなら恋が出来ますか?」
その気になった時だろと、これまた言葉を飲み込んだ。
「予測を立てろと仰いますか?」
「それは、必要ありません」
脳内立卦。『乾為天の初九』 そういう事か。それならば、、、
「どうやらこれまで何回も、いついつになら今度こそ
新しい恋に出会えると、言われ続けたようですね」
「はい、兆候すら見る事はなく、出会いすらなく甲斐もなく」
しょぼんとしながら依頼者は本音を語ってうつむいた。
サツキは彼女の目を見つめ、真剣な顔で問いかけた。
「自然の季節はいつ来ます?」
「春夏秋冬の事ですか?」
「はい」
「毎年だいたいその時期に、順番通りに巡ってて、、」
「でも考えてごらんなさい」
「何をですか?」
「同じ季節が来たとして、誰もが同じ事をする?」
「いいえ。行事は別として、人それぞれだと思います」
「恋の季節も同じです。ただ、ふたつ難しい
問題があって、、、」
「何ですか?」
「自然の季節とは違って、来るタイミングが人により
全く違うということと、見た目じゃそうと分からない
ってことです。それだから今がそうだと言われても
なかなか実感出来ないし、そうじゃないと言われても
納得出来るわけもなく、人は迷走し続ける」
「それじゃ私はいつまでも恋も出来ずに終わるのですか?」
「そんなに単純じゃないですよ。
見た目でそうと分からない。それは、自覚も難しく、
教えられてもなるほどと納得出来るものじゃない。
そういう事を意味します」
「それじゃここで教わって、実際その時が来ても
誰にもわからず過ぎてしまうじゃないですか?」
「そういうこと」
「そんなぁ」
「仮にそれが判っても、それで解決するわけじゃ
ないのが人生ってもんですよ」
「まだ何かあると言うのですか?」
「例えば、あなたは夏だからという理由で海に行き
続けることはないでしょう? たとえ季節はどうであれ
やる事はやるし、反対にやれない事もありますね」
「普通に生活していれば、、まあ」
「恋の季節も同じです。その時を得ても本人が
何をするのかしたいのか次第で、本当に
実現するかしないのか、違いが出てくるのですよ」
「季節が来るだけではなくて、当人の意思も必要、と」
「そういうことです。ご明察。この条件が二人分
揃って初めて、恋愛は成立すると言えるのです」
「そう考えると巡り逢い自体はただの偶然じゃ
ないと思えてきますけど」
「そうですね。季節と意思とタイミング。
すべてが揃うからこその縁と言えると思います」
「やっとわかった気がします。ただ望むだけじゃだめなんだ」
「注意深く慎重に。時を得たら大胆に」
「うーん、とっても難しい。それでも挑戦してみます」
「頑張ってください」
別嬪さんは落ち着きを取り戻して去って行った。
彼女はその後も幾度かここを訪れ続けたが
ついに大恋愛を経て素敵な相手と結ばれた。
----
※1)
今回の立卦は乾為天(けんいてん)の初爻。
六爻すべてが陽で、恋愛向きの卦ではありません。
むしろ何か志があるがまだ準備段階、という程の
象意です。サツキが季節の話をしたのはそもそも
本人が言うほど関心を向けていない、という事と、
そういう状況も出来上がっていない、と判断した
からです。状況や流れがそれなりに整って、本人
の関心がそちらの方に向いたとき(機といいます)、
初めてそれなりの結果が生じるのです(原因なし
に結果は起こり得ない)。
「おはよう」
サツキに声をかけたのは、同期で入社したセリナ。
結婚したのも同時期で出産したのも同じ頃。
家族ぐるみの付き合いが随分前から続いてる。
「昨日は新人くんを見た」
「どうだった?」
「可愛かった。」
「あんあ事があったのによくあんな子が採れたよね」
「メイさん得意のゴリ押しと思ってたけど違うみたい」
「女嫌いを治せって頼まれたとか何とか」
「そうだったの?」
「とてもそうは見えないわ」
「そうなの?」
「普通にイケメン好青年ってね」
「まぁそのうちわかるでしょ」
----
その日の業務は暇だった。ここは民間企業だが
我が社が困る事はない。もともと無料の相談料。
会社の実入りは契約で、ステーションから貰ってる。
完全予約の相談所。この日はキャンセル相次いで
予定は虫食い状態だ。いつもはぎっしり詰まってて
息つく暇もない位。こういう事は珍しい。
時刻は十四時二十分。予約が入っている時間。
「クライアントのお出ましよ」 サツキはちょっと嬉しそう。
歳の頃なら二十代前半位、と値踏みする。
髪は金髪碧眼で典型的な別嬪さん。
「私、恋がしたいんです」
いきなり切り出す依頼者に、サツキは少し驚いた。
「すっれば~??」と言いたいころだが、
それを堪らえて返事する。
「相手をおさがしで?」
「いつなら恋が出来ますか?」
その気になった時だろと、これまた言葉を飲み込んだ。
「予測を立てろと仰いますか?」
「それは、必要ありません」
脳内立卦。『乾為天の初九』 そういう事か。それならば、、、
「どうやらこれまで何回も、いついつになら今度こそ
新しい恋に出会えると、言われ続けたようですね」
「はい、兆候すら見る事はなく、出会いすらなく甲斐もなく」
しょぼんとしながら依頼者は本音を語ってうつむいた。
サツキは彼女の目を見つめ、真剣な顔で問いかけた。
「自然の季節はいつ来ます?」
「春夏秋冬の事ですか?」
「はい」
「毎年だいたいその時期に、順番通りに巡ってて、、」
「でも考えてごらんなさい」
「何をですか?」
「同じ季節が来たとして、誰もが同じ事をする?」
「いいえ。行事は別として、人それぞれだと思います」
「恋の季節も同じです。ただ、ふたつ難しい
問題があって、、、」
「何ですか?」
「自然の季節とは違って、来るタイミングが人により
全く違うということと、見た目じゃそうと分からない
ってことです。それだから今がそうだと言われても
なかなか実感出来ないし、そうじゃないと言われても
納得出来るわけもなく、人は迷走し続ける」
「それじゃ私はいつまでも恋も出来ずに終わるのですか?」
「そんなに単純じゃないですよ。
見た目でそうと分からない。それは、自覚も難しく、
教えられてもなるほどと納得出来るものじゃない。
そういう事を意味します」
「それじゃここで教わって、実際その時が来ても
誰にもわからず過ぎてしまうじゃないですか?」
「そういうこと」
「そんなぁ」
「仮にそれが判っても、それで解決するわけじゃ
ないのが人生ってもんですよ」
「まだ何かあると言うのですか?」
「例えば、あなたは夏だからという理由で海に行き
続けることはないでしょう? たとえ季節はどうであれ
やる事はやるし、反対にやれない事もありますね」
「普通に生活していれば、、まあ」
「恋の季節も同じです。その時を得ても本人が
何をするのかしたいのか次第で、本当に
実現するかしないのか、違いが出てくるのですよ」
「季節が来るだけではなくて、当人の意思も必要、と」
「そういうことです。ご明察。この条件が二人分
揃って初めて、恋愛は成立すると言えるのです」
「そう考えると巡り逢い自体はただの偶然じゃ
ないと思えてきますけど」
「そうですね。季節と意思とタイミング。
すべてが揃うからこその縁と言えると思います」
「やっとわかった気がします。ただ望むだけじゃだめなんだ」
「注意深く慎重に。時を得たら大胆に」
「うーん、とっても難しい。それでも挑戦してみます」
「頑張ってください」
別嬪さんは落ち着きを取り戻して去って行った。
彼女はその後も幾度かここを訪れ続けたが
ついに大恋愛を経て素敵な相手と結ばれた。
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※1)
今回の立卦は乾為天(けんいてん)の初爻。
六爻すべてが陽で、恋愛向きの卦ではありません。
むしろ何か志があるがまだ準備段階、という程の
象意です。サツキが季節の話をしたのはそもそも
本人が言うほど関心を向けていない、という事と、
そういう状況も出来上がっていない、と判断した
からです。状況や流れがそれなりに整って、本人
の関心がそちらの方に向いたとき(機といいます)、
初めてそれなりの結果が生じるのです(原因なし
に結果は起こり得ない)。