詩集  どんな恋ならしてみたい?
【依頼-04 何でも一緒、でいいのかな?】

セリナのある日の日記から。

今日は世間じゃ給料日。おまけに週末ときたもんだ。
私も早く切り上げて一杯やりに行きたいわ。

思っていると閉店の間際にひとり、依頼者が
駆け込んできて 「すみません。よろしいですか?」
とのたまった。小心者の私には、断る事もままならず
ついオフィスへ招き入れ、話を始めてしまったが、
酷く後悔こみ上げて、憂鬱な気持ちで聞いていた。

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「最近彼がわからない、と思う事が増えました」
涙ながらに訴える若い娘に問いかける。
「もともと人のことなんかそんなにわかるものじゃない。
 あなたは、何か勘違いしている様に見えますよ」
「勘違いなんてあり得ません。実際、これまで私たち
 何でも一緒にしてきたし」

脳内立卦は『雷澤帰妹(※1)』
ははぁん、なるほど。そうきたか。

「彼が一緒でない事を望む様になったとか?」
「は、はい」
「それって極めて正常な反応してると思うけど」
「で、で、でも私、いつだって」
「いいんじゃないの、違ってて?」
「元々違うヒト同士、合わせる必要ないでしょう」
「それじゃ彼の愛情が、、」
「二人で同じ事してないと駄目になってしまうもの?」
「えっ?」
「彼は同じでないトコをもっと見たいと思ってる。
 そう、私には見えますよ?」
「それじゃ、私は嫌われちゃう」
「それならそれでいいじゃない」
「私は嫌です、そんなこと」
「あなたのホント見せられた位で覚める愛情は
 所詮上辺だけのもの。遠からずして壊れます」
「酷いです、そんな言い方しなくても」
「もっと沢山見せ合って、それでも揺るぎない位
 しっかり相手を愛し抜く位でなけりゃ偽物ね」
「あぅぅ。そこまで言いますか、、、」
「もっと大人になりましょう。彼氏はそれを望んでます」
「彼が?」
「はい、今までとは違うステージに上る事が必要な
 時が来ている、ということ。成長しなきゃ、幸せは
 逃げていってしまいます」
「…理屈じゃそうかもしれないけど」
「少しずつで構いません。彼との違いを楽しんで
 新たな魅力の発見をすすめてみてはいかがでしょう?」

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余りにお決まりな台詞。とはいえ相手に必要な
事を伝えるのが役目。私も無碍にはできないし。

その日のラストのお仕事は無事に終わって良かったよ。
三年位経ってから、彼女は再度ここに来た。

結局あの彼とは別れ、いくつか恋を経験し、
去年、結婚したそうだ。報告がてら思い切り

惚気話を聞かされた。これも仕事のうちだけど
私は案外好きなんだ。哀しい話題なんかより

よっぽど元気になれるから。


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※1)
典型的な三陰三陽卦。バリバリの恋愛、結婚向きの卦です。
卦自体は行くべき所に行く、という意味です。
つまり、何でも表面を合わせてなんとなく仲良くなった気
でいた段階から、お互いに本質を見定めて一歩先に進む段
階に入った、あるいは入ろうとしている、と、セリナは判
断したのです。一歩先に進むには、今度は違う部分をぶつ
け合うしかないのです。
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