たった一つの勘違いなら。
「1-2年お付き合いして30までに結婚。そう考えるとさ、28って結構ギリギリでしょ。私ももう遊んでる余裕はないと思って」

恵理花は長い睫毛を瞬かせる。遊びでなく本気になると、富樫課長なのか。

「結婚狙いで富樫課長は、どうかなぁ」

ここで言うわけには行かないが、女性とは軽くというポリシーなのかもしれない。むしろカモフラージュというか。

「わかってますけど！でも玉の輿を夢見るのも仕方ないでしょ。会いに行ける王子様なんだから。他にも良いかなって思ってる人はいるから安心して」

王子様。

そう、統合ソリューション本部第二課課長の富樫真吾さんは、現社長の甥御さんという御曹司でもいらっしゃる。そこは人事総務法務系統での暗黙の了解として、騒ぎ立ててはならないことになっている。

お母様譲りだという噂の麗しい見た目の上、その年齢で既に多数の部下を持つ課長。

そして富樫課長の魅力は、この容姿・血筋など与えられたものだけではない。

その恵まれた立場に甘えず、一時社内政治的な事情で子会社に飛ばされていてもそちらで成果を上げて戻ってこられたというたくましさと営業としての実力。
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