たった一つの勘違いなら。


恵理花にはあれだけ強く言っといて、結局狭い部屋で膝を抱えている。鳴らないってわかってるのに、鳴らないスマホを見ていた。

会いたい。
もう結局はそれだけだってわかって来る。

怒っててもなんでもいいから、ちょっとだけでもいいから会いたい。




夜遅くなってから電話をかけた。長めのコールの後、やっと出てくれる。

「詩織です。あの、チョコを渡したくて。今お1人ですか?」

「ああ」

「お仕事中ですか?」

「いや、家だよ」

ホッとして、エントランスドアの前の部屋番号を押す。ちょっと間が空いて、自動ドアが開いた。

エレベーターが上に着くと真吾さんが待っていた。もしかしてここで渡せってことかな、ほんとはカズくんがいるのか。

でも私をちらりと一瞥した真吾さんは、眉をひそめつつそのまま手を取って部屋に向かった。迎えに出てくれたってことなのだろうが、明らかに機嫌は悪い。

そしてここまで完全に無言。

怒ってると言うよりは、少し酔ってる? リビングのローテーブルに洋酒の瓶とグラスが置いてある。
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