たった一つの勘違いなら。
「詩織」
優しい声が私を呼ぶ。まだどこか残っていた力が抜けて行く。
「ごめん。怖かったよな」
「怒って、それで、するのかと思いました」
真吾さんだからいいって思おうとしたけど、それでも怖いし嫌なんだってわかった。
「前の奴がそういう男だった?」
「……はい」
「ごめん、嫌なこと思い出させた? 」
「はい」
「幻滅させたな」
「いいえ」
真吾さんは悲しげにふっと笑い首を傾げる。
「そこは『はい』でいいんだよ」
「真吾さんはやめてくれたから」
怖がってると気づいてすぐ、やめてくれた。怯える私に自分の気持ちだけをぶつけて来たりはしなかった。
「君は俺を買い被りすぎだ。でも、そんな男のことは俺が忘れさせてやりたいよ」
とっくに忘れてます。私の心の中は真吾さんだけでいっぱいです。
「会いたかった」
「私もです」
「俺の方が10倍ぐらいね」
嘘です、そんなの。絶対。連絡もくれないくせに。
「連絡ずっと待ってたんです。謝りたくて」
「なんでいつも俺からなんだよ」
私からしたらダメかなって我慢してるのに。いつもいつも会いたくて、ずっとスマホ気にしてるのに。今だって結局会いに来たのは私の方なのに。
でもちょっとは自惚れてもいいですか。真吾さんも少しは鳴らない画面を見て悩んだりしてくれましたか。