たった一つの勘違いなら。
6章 決意の早春
バレンタイン以後の真吾さんは本格的に忙しくなっていた。
ちょうど二課の仕事が立て込んでいるのと同時に上層部やご実家にも呼ばれているらしく、私はほとんど会えなかった。
高橋くんでさえぼやいている。
「ほんっとにいないんだよ。いろいろ俺も確認したくてもさ、夜ならやっと捕まるとか、いい加減にしてほしいよ」
「うん、それでなにか仕事の件なの?それともまた恵理花?」
「いやいや、ただのお礼だって。ほら、なんでも頼めよ奢るから」
なんだ、 それだけですか。急にランチに誘ってきたから社内では話しにくいような何かかと思った。恵理花からも「付き合ってみる感じ」という微妙な報告は受けたけど。
差し出されたランチメニューから、遠慮なくデザート付きの一番高いセットを頼んだ。
「恵理花には言ってあるから気にするなよ。こっそり他の女と会ってせっかくの関係にヒビが入ったらまずいじゃん」
「高橋くんみたいにわかりやすい人っていいよね」
考えてることを隠す気もないし、きっと隠せない。突然『恵理花』とか言っちゃってるし。