たった一つの勘違いなら。

オフィスに戻る時、真吾さんと常務が連れ立って歩いている姿とすれ違った。こういう時、本当に偉い人なんだったよねって改めて思う。なんというか、引けを取らない態度。

「お疲れ様です」

私たちが挨拶だけして通り過ぎる際に、柔らかく目を合わせてくれた。

さすがに高橋くんとどうこうというのはもう思ってないみたい。あるわけないでしょ、真吾さんのそばにいながら他に目移りするなんて。

「機嫌いいんだよなぁ、忙しいのに。やっぱり出世コースってやりがい違うのかな」

「なんというか庶民な感想だね」

「近くにああいう人がいると、そういうのちょっと感じるんだよ。お前にはわかんないだろうけど」

一言余計。でもわからないのは本当だ。真吾さんの置かれている状況、考えていること。私にはわかることの方が少ない。


「常務のお嬢さんなのかねぇ、結構若いんじゃないのかな」

のんびりとした高橋くんの言葉に、私たち庶民はみんな似たようなことを考えてるなぁと頷く。

ちょうどいいんじゃないかな、少し年の離れた可愛らしい奥さん。

愛人には、きっとちょっと違うタイプがいい。

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