たった一つの勘違いなら。
「最近ほったらかしでごめんな」
「忙しいのに今日時間作ってくれたことのほうが驚きです。ギリギリでだめとかもあるかと思ってました」
「こういう日は特別。話したいこともいろいろあるんだけど」
話したいと言いつつ、どこか気乗りしない感じで言われる。もしかするとそろそろ、結婚のことだろうか。
「私も聞いて欲しいなって思ってることあって。でも今日はそういうの、ちょっと後でもいいですか?」
「そうだな。ゆっくり会えたの久しぶりだしね」
「明日からまた出張なんですよね」
「2泊だから、帰ってきたら連絡する」
「はい」
真吾さんが忙しそうで自分からは連絡できなかったと言って以来、少し先の予定を教えてくれるようになった。4月になる頃には落ち着くはずだと真吾さんは言う。
「そういえば人が増えたからシステム部門が引っ越すって。私たちも動くのかも」
「検討中だろ。情報早いね、恵理花経由か」
「真吾さんが恵理花って呼ぶ必要ありません」
わざと口を尖らせると、ごめんと小さく微笑まれた。
「今日はなんかかわいいな」
「いつもかわいいんじゃなかったですか」
「種類が違う」
テーブルに乗り出して、軽くキスされる。やっぱり今日は真吾さんの部屋で会えてよかったなって思った。