たった一つの勘違いなら。
ちゃんと朝になる前に目を覚まし、寝返りを打った真吾さんに「シャワー借りますね」と声をかけた。真っ暗だがもう、夜中というより明け方のほうが近い時間。
身支度を全部済ませて寝室のドアをそっと開けると、真吾さんはやっぱりそのまま眠っているようだった。
「真吾さん、寝てますか?」
起こすのは忍びないけれど、と思ったが真吾さんはすぐに気づいてくれた。
「帰る?ちょっと待って、着替える」
「大丈夫です」
「詩織?俺は何か、君を傷つけた?」
驚いたように、真吾さんが服を探す動きを止める。
「そんなことないです。最高のホワイトデーでした」
「なんで泣いてる?」
「泣いてません。真吾さん、そのままで話を聞いてもらえますか?」
答えは待たずに話し出した。
「もう春だし、私がいつまでもそばにいてもきっと真吾さん幸せになれないし、最後に1回だけって思ってたんです」
「勝手に決めるなよ、そんなこと」
「聞いてください」
ベッドから降りようとした真吾さんを止める。まだ話したいことがあるんです。