たった一つの勘違いなら。
春はどんどんやってきていて、日が暮れるのがずいぶん遅くなったなぁと感じていた。どうせ暇なのだから本社の裏の小道を通って歩いて帰ろう。
後ろから男の人が軽やかに走ってくる音が聞こえて端に寄ると、「すみません」と横を追い抜かしていく。
すぐ先で声が聞こえてきた。
「遅いよ」
「悪い、これでも相当急いだんだよ。課長に捕まらなかっただけでも褒めろ」
「だよね、まだちょっと忙しいんだもんね。ありがとう」
息が上がっている彼を彼女がいたわる。
社内恋愛かぁ、さりげなく横を通るにはちょっと狭いんだよねこの道。と思いながらもそっと通り過ぎようとする。
「お疲れ様です」
でも声をかけられて顔を上げると、西山さんだった。
「やっぱり。橋本さんじゃないかなと思った」
にこやかにそう言われたけど、だれこの女の子、と完全に固まってしまった。
彼女じゃなくて同期とか?あれ、でも子会社から来てるんだからこんなところで同期と待ち合わせなんて。