たった一つの勘違いなら。
「ソリューションの方?」と彼女がこそっと聞いている。

「いや、法務の」

「あ、もしかして富樫課長の彼女さん!」

「奈緒。でかい声で言うなよ」

なにがどうなっているのか、全くわからなくて固まった。誰なのこの子。

「すいません、でも大丈夫です。誰もいないですから」

「あ、はい」

西山さんが謝ってくれるということは、彼は終わったということまでは聞いてないんだろう。



「内緒なんですよね、ごめんなさい。でも私、子会社なんで全然関係ないから大丈夫ですから」

彼女も慌てたように手を振って謝ってくれるけれど、やっぱり誰なのか気になる。

「ごめんなさい、こちらの方は」

「俺の彼女です。突然すみません」

彼女。そうだよね、そうとしか思えない。子会社勤務の彼女。ならきっと真吾さんも知っている子。

「影森奈緒です。富樫課長にもお世話になってました」

ぺこりと私に頭を下げ、でもまた彼を見上げる。

「って言っても課長私のこと覚えてるかな。カズくん全然会わせてくれないし」

「会う必要あるかって言ってんの」

「あ、やきもちー」

「やめろよ」

つつかれて顔をしかめてはいるが、完全にじゃれ合っているバカップル状態であることはわかった。偽装とかではありえない完全な彼女。


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