たった一つの勘違いなら。
嘘だった。
全部嘘だった。
なんで?
考えるのが怖いのに、答えは勝手に浮かび始める。
偽装の彼女になってと言った。
手をつなぎ、部屋に招き入れ、手懐けて、キスに慣らして。
怖がった時は一度やめて、私が自分のほうから来るのを待った。
『詩織を手に入れようとしたのは俺だよ』
そうだ、確かにそう言った。
全部、全部が。
嘘で、ごまかしで。
私を手に入れるための汚い遊びで。
笑っていたんだ。きっと。
幸せじゃないだなんて妄想で彼のことを決めつけた地味な女の思い上がりを。
『春までね、頑張るよ』
最初にそう言っていた彼は。頑張ってそれを成し遂げた。
なんだってできる人だから。
約束通り春までに、頑なに警戒していた女の心も身体も手に入り、バカな女はそれでも気づかず、勝手に満足して身を引いた。
彼のほうが飽ききる前に、きれいさっぱり。
連絡なんてもう、来るわけなかった。