たった一つの勘違いなら。
もうグラスがなくて、隣の棚から皿を手に取る。
白い鉄製の玄関ドアに向かって、力任せに投げつけた。
派手な音を立てて割れる。
何枚も、何枚も。
投げるものがなくなるまで、叩きつけた。
ドアを開けて小さく狭い部屋に入る。
ベッドに乗って、ヘッドボードの上のものを全部両手でなぎ払った。
枕を掴んで、ベッドに叩きつける。
多分何か叫んでいた。言葉にならない呻くような叫び声で。
枕を両手で掴んだまま、ベッドに強く叩きつけ続けた。声が枯れるまで。
全部最初から、嘘で。
最後まで、全部。
あの優しさは全部。
ただ私をまるごと手に入れて、後腐れなくまるごと放り出すための。
『カズくんとのことは今も応援しています』
そう言った私が、さすがに哀れになったのか。
悲しげな顔を最後に見せたのは、それともそれも見せかけなのか。
『俺は詩織が思ってるほどいい男じゃないんだよね』
そういつか聞いた。ヒントさえ与えて、でも気づかなかったバカは私で。
優し気な声が、あの手が、全部。
消えろ、消えればいい。
あの人も、私も、全部。
消えてなくなれ。
たぶんそんなようなことを喚きながら、私は狂ったように枕を叩きつけていた。