たった一つの勘違いなら。
いつのまにか眠っていたようで、うるさいインターホンで目を覚ました。朦朧としながらとりあえず反応する。
「はい」
「警察ですが、大丈夫ですか」
「え?」
しかたなくチェーンをかけたまま隙間から覗くと、2人組の制服警官が警察手帳をかざし、念のため開けてくださいという。言われるままにチェーンをはずす。
「ご近所からすごい音がしてると通報がありました」
玄関と続く細い廊下には破片が散乱し、スリッパなして歩くことは不可能な感じだ。
「ちょっと、嫌なことがあって」
絶句したお巡りさん達にそう伝える。
「お1人ですか」
「はい。ストレス解消で。お騒がせしてすみません」
「あー、まあ、その、怪我のないようにっていうのと」
「何かあったら警察に連絡を」
「はい」
気の狂った女が住んでると、交番に登録されたりするんだろうか。
大丈夫、もう割れるものもないですから、大丈夫です。
ベッドに戻って泣いた。
もう叫び声は出なくて、布団を被って枕に顔を埋めて、泣いて泣いて泣いた。