たった一つの勘違いなら。
『もしもし、加納ですけどどうしたの?』
朝9時半。まだ欠勤になる時間でもないけど、私がいないのはおかしな時間だ。
「すいません、ちょっと」
『ひどい声ね、風邪?』
「そうかもしれません」
泣きすぎて声も枯れたとか、さすがに言いにくいが今日は行けそうにない。
『今日おやすみって伝えとくね、病院行ってね、インフルエンザも流行ってるから』
「はい」
『熱もあるの?大丈夫?』
「はい、ちょっと、寝てます」
切ってまた寝ようとして、昨日のままの服だと気づいて部屋着に着替える。布団にきちんともぐりこむ。
また電話がかかって来た。もうお昼か。
『どう?やっぱりインフルだった?』
そう聞かれた途端に口が勝手に答えていた。
「みたいです」
『春先なのにまだ流行ってるもんね、B型だよね。申請しとくから。今日からだと今週いっぱいダメか、急ぎの仕事あった?』
「すみません、一応共有フォルダに入っているかとは」
『わかった、見るからいいから、寝てなさい。大丈夫?野島さんにでも様子見に行ってもらう?』
「いえ、いろいろ買い置きあるから」
『そうか、そうね、移る風邪だしね。とにかくよく休んで。最近忙しかったから。お大事にね』