たった一つの勘違いなら。


加納さんの勘違いを利用して嘘をついた。最悪なのはもう、もともと最悪だから、もうどうだっていい。

買い置きと非常食は本当にあった。そして私は熱もないのに眠り続けた。泥のように。

何かずっと疲れていたのかもしれない。

この半年。

慣れない暮らしで。嘘の暮らしで。

自分の気持ちも無理をしていて。

でも身体は知っていたのかもしれない。本当は。

あんな嘘みたいな優しさは本当のはずがない。そんなのよく考えればわかるはずだったのだから。






嘘がまことになったのか、翌日は身体が怠くてたぶん熱を出した。ただただ眠り、賞味期限が切れたカップラーメンとかを食べてまた寝て。

恵理花や高橋くんからのお見舞いメッセージにだけはやっと気づいて、大したことないから寝て治すね、とまともな人間のふりをして返信を書いた。


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