たった一つの勘違いなら。
完全にエネルギーが枯渇している私にはなすすべもなかった。

「行くよ。靴履いて。タクシー拾うから」

「どこ行くの」

「私のうち。こんなとこに置いとけるわけないでしょ」

恵理花には迷いがなく、ここ最近ずっと変わらずあった垣根はどこに行ったのかと思う。

「詩織が恋愛する時は、私がとことん聞く約束でしょ」

「恋愛なんかじゃなかったんだよ」

言った途端に涙が出て、どこまで出るんだこれ、と思った。

「私がやっつけてやるから。総務女子の底力見せてやるから」

総務って何か関係あるの、誰をやっつけるつもりなの。



なんで最初から恵理花に相談しなかったんだろう、私。慣れてなくて騙されやすくて、扱いやすいバカでも、恵理花が教えてくれたかもしれないのに。



……無理かな。

夢中だったから。最初から最後まで。あんなにきれいで優しくて、どこか悲しげで優しくて。かっこよくて優しくて。

なにを言われてもきっと、聞く耳を持たなかったかもしれない。


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