たった一つの勘違いなら。



恵理花と2人でこんな風に話すのは、久しぶりだった。

思い出す、自分の日常を。

トキメキなんかとは無縁で、富樫課長と週に1度言葉を交わすだけで満足していたあの頃の自分を。

思い出せ、巻き戻せ。

あんな夢は幻だったのだから、話し尽くしてもう忘れて、現実に帰ればいい。



私の部屋よりはだいぶ広い、恵理花が去年やっと実家を出て借りた部屋で温かい紅茶を飲んでいる。いくつかのコンビニデリとワインとチューハイも用意されている。

最初から最後まで、大まかに話した。

2人の関係を指摘して、偽装彼女になって、結局好きになって、最後に頼んで抱かれて。後から全部嘘だとわかった。

「偽装か。それはちょっとさすがに思いつかなかった。詩織がもしかして遊ばれてるのかもってちょっと思ってて」

さすが恵理花。気づいてたんだ。


「でも、それでもきっと、なんかいい方向に行くんじゃないのって思ってた。課長が血相変えて法務に来たことあったじゃん」

うん、カズくんのことがバレそうになったときね。

「いいじゃんこの2人って、思ったんだよね。向こうもなんか振り回されてそうって」

「全部嘘だったんだよ。西山さん彼女いて、全然ほんと、嘘だったんだよ」

「あの人、軽い付き合いなんだって。最初からそういう風に念押ししてから付き合うんだって」

「私はそんなの乗ってこないから。新しい遊びだったんだよね」

「かもね」

わかってても、肯定されるとまたグサッとくる。でも恵理花のこの正直なところが好き。


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