たった一つの勘違いなら。

「全部嘘だったの?」

「うん」

全部全部が嘘だったんだと、認めてしまえばいいんだと思った。

「そのカズくんとのこといろいろ言って妬かせたりとか?」

「そういうんじゃないけど」

「詩織が慣れてないと思って褒めちぎってくるとか?」

「ううん、警戒するのは当然だって。私は私のままでいいんだって。無理しなくていいんだって」

言っててまた泣けて来た。優しかった全部が嘘だったなら、思い出したくないのに。



「詩織。私はそれなりに、嘘くさい男の経験も積んでるんだけど」

恵理花は確かに痛い経験もしてる。私ももっと若い時にもっとそういうの、しとけば良かったのかな。恋愛から逃げていたから、こんな年になってもまたこんな風に騙される。

「そういう奴は半年もかけない。男慣れしてない詩織なんか2週間もあれば落とせる、と思っちゃうわけ。そこを春まで頑張ろうという時点で最初から詩織をわかってる」

なんなのそれは。2週間で落ちたりはしないでしょ、法務の堅物だよ私は。

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