たった一つの勘違いなら。
『君さえいてくれれば、なんでもできそうな気がするんだ』
あの時そう言われた。その言葉は思い出してもまだ大切すぎて、恵理花にも言えなかった。
あれも全部嘘だとか、わかってても今でもまだ思いきれなくて。往生際悪く涙が滲む。
「他にはなんかない?」
「恵理花にわざと触ったり、飲み会に行ったのを怒ったみたいだったり。私のことを少しは好きなのかと思った」
カズくんと少しだけ、同じように。
「好きだとか結婚したいとかも言われたの?」
「そんなの全然ないよ。ただ優しくて。そばにいてって、会いたかったって、私が必要だって。でも全部嘘なんだよね。好きでもなんでもなくて」
好きだなんて言われるわけない。好きなわけじゃない、ただ、手に入れたかっただけ。
「詩織は? 好きってちゃんと言った?」
「だって、私は偽装だから。そんなこと言ったらダメだと思って」
「終わらせようと思ってたのは詩織の方じゃないの?」
畳み掛けるように、責めるように言われても。そんなのしかたないでしょう。最初からそういう約束だったの。
「詩織のほうは気が狂うほど好きなんだって、伝わってると思う?」
「わかってるに決まってるよ。抱いて欲しいって私が言ったの」
好きでもない人に抱かれたいわけない、私が。そのくらいのことがわからない人じゃない。