たった一つの勘違いなら。
「高橋みたいなデリカシーがない奴は、私ぐらいがいいと思うわけ」
「のろけ?」
「でもあそこまで無神経なら逆に詩織にもいいのかなとも一瞬思った。詩織には幸せになって欲しいのよ。わかってないと思うけど、あんた私の精神安定剤みたいなものだから」
なぜか顔を赤くする恵理花がグラスを煽る。今日は2人で珍しくお酒を飲んでいる。
「女の人を好きになれたらよかった」
少し酔ってる私も言う。
「生まれ変わったら、私が詩織を幸せにしてあげるから」
マッチョはやだからひ弱な男で生まれて来て、いや一目惚れさせるから身体勝負で行く、無理そういうの怖いから。
くだらないことを言い合って、酔っ払って、なんでかまた2人で泣いて。
恵理花。
もしもあなたが傷ついたら、高橋くんが立ち直れないほどの報復をしてあげたい。
くだらない男たちの思惑を全部、ぶっ壊してぼろぼろにしてやりたい。
でもそれでも。
真吾さんは今、どうしてるんだろうと少し思った。
カズくんは実はいなくて。私もいなくて。
1人でごはんを食べるのが苦手なあの人は、一緒にごはんを食べる人が今日もいるのだろうか。
結婚するはずの誰かの前では、王子様じゃない方の顔で笑えているだろうか。