たった一つの勘違いなら。
8章 一生の春暖
恵理花が帰ってくる前にご飯でも作ろうかなと思っていたけれど、結局動けずぼんやりと1日が過ぎた。
【詩織のうちに荷物取りに行こう。先に何かちょっと食べててくれる?】
【昨日の残りとかあるから私はOK。でも服とか結構入れてくれたでしょ】
【部屋があのままなのも気になるし、とりあえず1回帰ったほうがいいと思う】
そう言われるとそうかもしれない。土日までここに居座ったら、高橋くんにも悪いだろうし。
恵理花は帰ってくると「タクシー停めてあるからすぐ出るよ」と私の荷物を持ち、有無を言わさず外に引っ張り出された。
なんだか私の周りはこんな人ばっかりだとちょっと笑えて、笑えた自分にびっくりした。
2人で後部座席に並んで、メーターが上がっていくのをちらりと見る。うちまで20分以上はかかるはずだ。
「タクシー代、昨日の分もまとめて出すね。結構かかるよね」
「ああ、うん。スポンサーいるから平気」
スポンサー?もしかして高橋くんに払わせるの? どうしても帰せとか言ってるのかな。
「ねえ詩織。ちょっとは気持ち、落ち着いたよね」
「うん。ありがとう。さっきもちょっと笑えたし、元気になった」
「いろいろ私も考えたんだけど、まあ嘘って言ってもさ、1個だけなんだよね」
「そうだね。それが全部って言えば全部だけど」