たった一つの勘違いなら。


どうしたらいいのかわからずにいる私に、「聞こえてた?」と課長が尋ねる。

「食事の約束をしてた相手が都合悪くなっちゃってね、ごちそうするから付き合ってくれないかな?」と続いた問いが私へのお誘いだとわかるのに少しかかった。

西山さんとの約束を反故にされて当てつけのように私を、ということ?

「でも、西山さんが」

「あいつはデートみたいで、今日はダメだって」

え、とまた驚きつつ、そうかお互い他の人と約束しているという建前だと理解した。当たり前だ、オープンにしている関係ではないんだろう。

「予約してあってキャンセルできないんだよ。どうかな?迷惑?」

「いえ、そんな迷惑なんて」

「そうか、よかった。こっちの道なんだ、案内するよ」

優しい物腰でもどこかが強引。はなから私ごときに断られるとは思ってもいないんだろう。

もちろん私に断る選択肢なんてないけれど、どうしよう、いいんだろうか。

現実感がないままに、ふわふわとした足取りで王子様の隣を歩いた。

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