たった一つの勘違いなら。


私だって何も話すつもりないから、黙ってソファに座る。どんな顔をしていいのかわからなくてそっぽを向く。

真吾さんに会うんだったらもっとちゃんと化粧とかしてきたのに、と絶対今の状況的に見当違いの方向で恵理花を恨んでいた。

「聞いた。西山と野島さんに」

やっと真吾さんが口を開く。

「惚れさせてから、なんでもないように『きみの勘違いだよ』って言うつもりだった」

だったらそうすればよかったのに。とっくに惚れてたでしょう、私。最初はキスは嫌だと言ってたくせに、キスもその先も全部したのに。



「俺が先に惚れるとか、いつまでも落ちてこないとか、嘘だったら別れるとか、全然思い通りにならなくて困った」

静かに、呟くように真吾さんが言う。まるで本当に困っていたみたいに。

「口先ばっかりで適当だってあの人も言ってました」

騙されない、もう騙されないって決意を込めて言い返す。


「彼女ね、ちょっと付き合ってた。内部情報も欲しい時だったし。でもいろいろやってたのバラされて飛ばされて、むしろ天敵」

「なんの関係もないって」

「あれは『カズくん』の話をしてるつもりだった」

カズくん? でも、カズくんのことだなんて一言も言ってなかった。ただ『あいつとは関係ない。詩織が思っているような関係じゃない』って。

ああ、カズくんとは私が思っているような関係じゃないってこと?
< 141 / 179 >

この作品をシェア

pagetop