たった一つの勘違いなら。
私だって何も話すつもりないから、黙ってソファに座る。どんな顔をしていいのかわからなくてそっぽを向く。
真吾さんに会うんだったらもっとちゃんと化粧とかしてきたのに、と絶対今の状況的に見当違いの方向で恵理花を恨んでいた。
「聞いた。西山と野島さんに」
やっと真吾さんが口を開く。
「惚れさせてから、なんでもないように『きみの勘違いだよ』って言うつもりだった」
だったらそうすればよかったのに。とっくに惚れてたでしょう、私。最初はキスは嫌だと言ってたくせに、キスもその先も全部したのに。
「俺が先に惚れるとか、いつまでも落ちてこないとか、嘘だったら別れるとか、全然思い通りにならなくて困った」
静かに、呟くように真吾さんが言う。まるで本当に困っていたみたいに。
「口先ばっかりで適当だってあの人も言ってました」
騙されない、もう騙されないって決意を込めて言い返す。
「彼女ね、ちょっと付き合ってた。内部情報も欲しい時だったし。でもいろいろやってたのバラされて飛ばされて、むしろ天敵」
「なんの関係もないって」
「あれは『カズくん』の話をしてるつもりだった」
カズくん? でも、カズくんのことだなんて一言も言ってなかった。ただ『あいつとは関係ない。詩織が思っているような関係じゃない』って。
ああ、カズくんとは私が思っているような関係じゃないってこと?