たった一つの勘違いなら。

でも全部が全部嘘なわけじゃなかった。それはきっと本当で。

「今はちょっとまだ許すって言えないですけど、一生許さないなんて話じゃないってもうわかってます」

「許してもらえたときには、俺の一生を君に捧げたい」

真吾さんは真顔で『一生』と言った。

「なに言ってるんですか」

「どちらにしても俺の人生は君のものだけど」

「ダメです、そんなの。もっと自分を大事にしてください」

「自分で欲しいって言ったんだろ?」

真吾さんが欲しいですって言ったあんなの、あの時だけって言ったでしょう。人生なんて。

「そういうことじゃないです」

「欲しかったのは俺の身体だけ?」

ずるい、そんな聞き方。まるで私の方が悪いみたいに。

「自分の人生を大事にしてるよ、最大限に。詩織は俺の女神だって言っただろ。俺の人生には女神が必要だ」

口が上手い。口が上手い。この人は口が上手い人。口が上手くて、飽きっぽくて、平気で嘘をつく人。何を言ったら私が喜ぶか全部わかってる人。

< 144 / 179 >

この作品をシェア

pagetop