たった一つの勘違いなら。


「ずるい、そうやってなんでも自分の思い通りにして。優しいフリして、ずるい、汚い、ひどい」

「そうだな。ごめん、最後はいい人のフリをして傷つけないで君を手放そうかと思った。でも無理だった」

そうやって認めたら許してもらえると思ってるんでしょう。傷ついたような悲しそうな目をして。

今だって全部、私にわからないように自分の思い通りにしようとしてるくせに。


「西山に『橋本さんに会って影森が喜んでました』って能天気に言われてさ」

本当に察しが悪いっていうか、バカなんだよなあいつ、って吐き捨てるように言う。ひどい。

「でも俺のせいで傷ついてまた男嫌いになって婚活なんかやめてさ。一生ひとりでいてくれたらいいと半分本気で思ったような奴だよ、俺は」

ひどい。でもきっとそうなってるはずだった。


「だから許さなくていい。一生俺だけを恨んでいて欲しい」

優しい目をして、私を見つめるこの人を。

でも許せない。全然まだ許せない。

「最低。迷惑。大っ嫌い」

低い声でうなるように告げる。

「うん、わかってる」


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