たった一つの勘違いなら。


「償うってなんですか。なんでも言うこと聞いてくれるんですか」

「はい」

「もう騙さないって約束できますか」

「はい」

「私の前でほかの人に優しくしないでくれますか」

「はい」

そんなになんでもはいはい言ったって、そんなの償いには全然足りない。信じさせてよ、嘘じゃないって、信じさせて。



「どこで誰といるのかいつも教えて」

「はい」

「私以外の人を好きにならないで」

「詩織だけだよ、約束する」

「……キスして」

返事はなくて、でも一生続くんじゃないかと思うようなキスだった。強引なようでいてちゃんと私のタイミングをうかがって、でも結局は自分のペースで私を溶かしていく。

この人のキスはいつだって甘い。

でも悔しくて胸をどんどん叩いて、泣いて、首に腕を回して、噛み付くみたいに唇を重ねた。



ベッドの上でもじっと我慢してなんてあげないで、噛み付いたり叩いたり散々暴れて、でもそんな私をなだめるようにあやすように真吾さんは抱いてくれた。

何度も何度も名前を呼んで。止まらない涙にまでキスをくれて。しがみつく私とリズムを合わせて。

最後の最後に力が抜けて、全部預けられる様になるまで。

騙されてもいいから、もうこの人に全部まるごと騙されててもいいから。そう思えるまで。



真吾さん、その腕でただ抱き締めてくれるならもう、きっと私は全部あなたのものです。どれほど何度幻滅しても、あなたが私を求めてくれるなら。

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