たった一つの勘違いなら。

大きなベッドの中で、朝を迎えた。思い出すとちょっと、いやかなり、昨日の自分は恥ずかしいけど。いいの。だって償ってくれるってこの人が自分で言ってくれた。

「おはよう」

この声も手も。当たり前みたいに隣にあるのがまだちょっと、信じられない。

「おはようございます。今日も仕事ですか?」

「うん、午後からでいいけど」

そうか、忙しいもんね。私も家に戻らないと。

「もう1回したかった? ごめんね、忙しくて」

何気なく言われて頷きそうになって、はっと我に返る。したいとか、そういう話をしてるんじゃなくて!

「かわいい。仕事行きたくなくなるな」

身体に回したままの腕で私を引き寄せる。


「働いてる真吾さんもかっこいいですよ」

反撃でちょっと私もからかう気持ちで言ってみるけど。

「好きだよ」

不意打ちでおでこにキスして、勝手に立ち上がって行ってしまった。全く太刀打ちできなくて、今の言葉をただ心で反芻する。

真吾さんが先にシャワーを浴びるなら、私はどうしたらいいんだろう。もう一度脱ぐのに服を着てたら変かなと思いつつ、やっぱり落ち着かないから着ておいた。

戻ってきた真吾さんは、ワークパンツにロングTシャツという、完全にくつろぎモードのスタイルだった。

「詩織もこういうの持ってきてる?」

「いつもの緩いスカートですけど」

「まあいいか。実際作業するのは俺だからな」

作業というのは何のことだかわからず首をひねった。

「グラス割ったら俺が片付けに行くって前に約束したよね?」

「無理です!あの、狭いし、グラス割ったとか割らないとか、そんなレベルじゃなくて。無理です」

「はいはい。なんか食べてから行こうな」

ごく適当にあしらわれて、それ以上言うことがなかった。
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