たった一つの勘違いなら。
私が先に入ってちょっと何とかすることも許されなかった部屋に一歩踏み込むと、「すごいな」と呆れたように真吾さんはつぶやく。

だから最初からそう言ってるし、大暴れした後引きこもってカップ麺とか食べて、恵理花が踏み込んでクローゼットからいろいろ出したような状態なんだから。

「一応お伝えしておくと、いつもはもう少しちゃんとしています」

往生際悪く言ってみる。そもそも狭くて暗くて、真吾さんがいるのが場違いな場所なのに、そのうえこの惨状が私の部屋としてインプットされるなんて。

「これはちょっと無理かも」

「はい、自分である程度頑張ってみるので」

「業者さん呼ぼう。詩織は当面の服とか持ち物とか、足りない分あれば持って」

片付け業者さんか。そんなにひどいかな。でも確かに、真吾さんの手を煩わせるよりはずっといい気がする。


今日も泊めてもらうなら仕事用の服をといくつか取り出して。あ、もうひとつ。

「ひとつだけ、今ちょっと探したいものがあって」

「なに?」

「ピアスの箱。ベッドから落としたので」

落としたんじゃない。なぎ払って吹っ飛ばした物の中に入ってる。


部屋のほうにはガラスはなかったのですぐに見つかった。するつもりにはなれず、でもしまい込むことも出来ず、ヘッドボードに置いたまま何度か開けて眺めていたから。


小箱を開けて中身に問題がないことを確認すると、一緒に覗き込んだ真吾さんが言う。

「これ本当はさ、セットになってて」

「セット?」

「それもいつか渡そうと思ってたんだけどね」

色違いとかかな。迷って両方買うくらいのことはできそうだな、真吾さんって。

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