たった一つの勘違いなら。
少し歩くけどごめんねと連れていかれたのは、駅とは反対方向へと歩いて行った細い道沿いにあるフレンチビストロだった。
前を通ったことがある。いつ見ても満席でにぎわっているこじんまりしたレストランだ。
ブルーのギンガムチェックのテーブルクロスがかかっている家庭的なインテリア。フランスらしいポスターや旗が壁に飾られている。
「なかなか人気の店でね、予約が取れたのも久しぶりなんだ」
富樫課長が慣れた様子で説明してくれるプリフィクスというメニューから、前菜・メイン・デザートを選んで注文する。
予約しているなんて高級なお店だったらどうしようと思っていたけれど、意外にも庶民的な雰囲気でホッとしていた。
カップルが多いとはいえ男同士でもギリギリおかしくはない感じの雰囲気。
「一度話してみたいと思ってたんだよね、法務部のミステリアスな美人と」
「全然ミステリアスじゃないです。見たまんまの地味な人間で」
「そう?そう言うのって自分じゃわからないものなのかな」
富樫課長は、困っていたところを私が通りかかって助かったという姿勢を崩さず、私が気づまりにならないようにしてくださっていた。人格者だ。