たった一つの勘違いなら。


結局多少の荷物を持って、また真吾さんのマンションに帰る。真吾さんは軽くお昼を食べて着替え、そろそろ仕事に出るところだ。

「俺が今度片付け手配するけど、詩織はその後もしばらくここにいたらいいよ。要注意人物として警察にもチェックされてるんだから」

「ここに住むってことですか?」

「そう」

「なにかまた騙そうとしていませんか」

さすがにこの流れに何か勘付いた私に、真吾さんは笑う。だって、見る前からあんな状態だってわかってたはずなのに何しに行ったの?

「このままあっちは引き払ってここに住めばいいとは思ってるけど」

一緒に暮らすっていうこと?ここで?いいの? そんなのかなり嬉しくなっちゃうけど、でも。

「なんで普通に『一緒に暮らそうか』って言ってくれないんですか」

「一緒に暮らそうか」

だからそうやって、簡単に誘えるくせにどうして回りくどいことをって聞きたいのに。

「……はい」

返事を待っている真吾さんに、結局答えてしまう。

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