たった一つの勘違いなら。



都内なのにかなりゆったりした間隔で家が立ち並ぶ住宅街。富樫家は、その中でも大きい邸宅だった。

「意外と普通って感じだろ。そんな緊張しなくていいのに」

と真吾さんはやっぱりどこか感覚がずれている。「社長のうちは結構すごいよ」と比べる相手を間違っていらっしゃる。



ご家族の皆さんにごあいさつした後、食事の準備ができるまでこちらでと応接間で食前酒を頂く。車は運転せずタクシーで来たから真吾さんも楽しそうに飲んでいる。

社長の妹さんにあたるのが真吾さんのお母様で、お父様は入り婿的な立場でうちのグループ本社に勤務していたそうだ。

だが社内政治のあれこれに嫌気がさして、今はグループ内ではあるが小規模なコンサルティング会社のトップに立っていらっしゃる。

「真吾にも別にあんなところにいる必要ないって言ってるんだけどね」

そういう事情もあって、お父様は真吾さんに対して意外な立ち位置だった。

「お見合いとか政略婚とかは、義兄さんがさせたがってるんだけど私は反対しててね。まあ立場はあんまり強くないので言えないんだけど。それに真吾がいつまでもフラフラしてるんだったらそれもいいかと」

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