たった一つの勘違いなら。

「だからさ、それお兄ちゃんの趣味だし、私たちに謙虚な姿勢とか絶対無理だし」

もうそのまま2人は延々と楽しそうに言い合っている。

「私はね、真司さんがいる部署にまず異動させてもらって、仕事をいろいろ教えてもらって、それで告白させたのよ。まさかこっちから言えるような立場じゃなかったから」

結婚前は本社で働いていらっしゃったと言うお母様が私に静かに声をかける。

「そういう時に大事なのは、下準備と戦略ね」

にっこりと美しく笑うその人は、どう見ても真吾さんのお母様だ。面白いなぁ、このご家庭。



真吾さんはこういうとき、別にそんなに話さず、コーヒーを飲んでのんびりしている。

お兄ちゃんお兄ちゃんとかしましい妹たちをあしらって、優しい態度だけれど何か持ってこさせたり。

そうか、こうやって鍛えた技。




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