たった一つの勘違いなら。
普段はあまり飲まないワインを、勧めて頂くままに少し飲みすぎ、だんだん顔が赤くなってきたのがわかる。
私がかなり緊張しているとわかると、法務部長の奥さんとの馴れ初めだとか、ソリューション本部の早朝会議のことだとか、相槌を打ちやすい話を富樫課長はいろいろ聞かせてくれた。
酔わないように気を付けないとと思いつつ、緊張をほぐすのにアルコールは助けになったみたいだ。
デザートまでにはだいぶリラックスして、私もこの信じられない幸運がもたらした時間を楽しんでいた。
「会いに行ける王子様とこんな風に2人で過ごせるなんて、本当に夢のようです」
思ったままがダダ漏れに口から出ているのが自分でもわかる。
「光栄だな。橋本さんは俺には興味がないかと思ってたけど」
「まさか。私だって一応女性です。もちろんファンです」
社内の全女性が多かれ少なかれ課長のファンなのではないかと思う。だってこんなにかっこよくて紳士で、非の打ち所がない。
「ファンか。喜んでいいのかな、それは」
そう言われて目を上げると、「笑うとかわいいだろうなっていつも思ってたんだ」と言われた。
社交辞令だとわかっていても、この至近距離でこんなこと言われるなんてさすがに予想外で対処に困る。