たった一つの勘違いなら。
真吾さんは深いため息をついた。先に言えよ、とつぶやかれ、言いました、と応える。自分が勝手に思い込んだだけでしょう。
「何考えてますか」
「長かったなと思って、ここまで」
「真吾さん、いつからで考えてます?」
「いつからだったかな」
「最初はただの冗談だったんですよね」
「まぁ、そうともいえないというか」
斜め上を見てとぼけようとする姿に嫌な予感がする。
「真吾さん?」
「うちの近所をぼーっと気を抜いて歩いてる子がいて。見覚えある気がするけど誰だったかなと思ってたら、月曜のエレベーターで見かけて。ずいぶん雰囲気違うなぁって気になってた」
それって、なにかが始まるより前ってこと?
「知ってたんですか、近くに住んでるって」
「うん」
「車で迎えに行くとか、ナビで住所入れるとか、すぐ用意してとか」
「住所までは知らなかったからね。あとあの気の抜けた感じのほうの子に会いたかったし」
信じられない。この期に及んでまだ、そんな事実というかごまかしが出てくるとか。