たった一つの勘違いなら。

「嘘はついてないよ。『知らなかった』なんて言ってない」

もう悪びれる様子もない。

「一生償うから。でも後悔してない。ほかにやりようがなかった」

「どんなやり方でも、私が真吾さんにファンだから幸せになって欲しいって言ってなければダメでしたよね」

「そうかもね。それに『カズくん』がいなかったら、詩織はもっと警戒してた」



もし、あの階段もエレベーターもなくて、ちょっとでも違う形で物事が進んでいたら。

きっと私たちはお互いに勘違いなんてしなくて、あんな風にゆっくり近づくことができなくて。

きっと堅物な私も遊び人の真吾さんもそのままで。



目を合わせて、どちらからともなくキスをした。

私のありあまる幸運と、彼の抜け目ない策略に無言で感謝して。



大好き。

真吾さん、あなたのことは今もまだ許したなんて言わないけれど。

一生あなたらしくそのままでいてください。

きっと私は一生、そんなあなたのファンでいるから。




THE END

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