たった一つの勘違いなら。

「で?どうしたいんだっけ?」

真吾さんの声に恵理花が応じる。

「ちょっとカメラ準備しますね」

「写真?っていうかこれってなんの会なんですか?」

混乱しているらしい高橋くんを置いて、真吾さんが「みんなそっち座ってて」と声を掛けてからキッチンに入ってきた。

「準備できた?」

「はい」

と応えつつも、ここから2人で出て行って驚かすのはやり過ぎな気がするけど。エプロンを外すように言われて、そうだったと慌てて脱いでフックにかける。


「今日もかわいい」

振り向いた私に何気なく言って、真吾さんが腰に手を回して口づけてくる。え、なに?今ここで?

びっくりしているところにもう一回。キスしながら、左の薬指にするりと婚約指輪がはまった。寝室に置いてあったのにいつの間にか取ってきたんだ。

「行こうか」

真吾さんは優しく微笑んで手を取ると、せーの、と声を出して踏み出す。


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