たった一つの勘違いなら。
「赤くなってるのはワインのせい?」

小首を傾げながら、すっと伸びた手が私の頬に触れた。男の人の指先の感覚に思わずびくっと身体を引く。

「まだ警戒されてるなぁ。いきなり襲ったりしないから安心して。軽いって噂は知ってると思うけど」

「いえ、そんな風に思ってません。こんな私にもいつも声をかけてくださって本当にすごい方だなって」

「女性に声かけすぎって部下には怒られてばっかりだけどね」

課長がモードを切り替えてくれたのが分かった。少し近づいた距離感を適正に戻す感じ。



ホッとしながら考える。女性に声をかけるのを間近で見るのは、

「カズくんとしては嫌だろうなぁ」

「カズくん?」

え、今声に出てました? まずい、意外と私酔ってるみたい。

「西山のこと?」

「すみません。何度かその、聞いてしまって。でも誰にも言ってませんから。お2人の関係とか」

「関係?」

興味深そうに、探るように私をじっと見る。
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