たった一つの勘違いなら。


用意した料理はあらかた片付き、皆まだ飲みたそうなのでお酒と少しつまめるものを補充する。

ビールの缶を渡しながら、高橋くんが奈緒ちゃんに話しかけている。

「奈緒ちゃんて結構飲めるね。西山より強いの?」

奈緒ちゃんは「たぶん同じくらいだと思います」と応えているが、高橋くんは恵理花に引っ張られている。

「なに?」

「影森さんて呼べ」

「え、そうなの?」

「課長が影森さんて呼んでる。西山くんが何気に嫌そうな顔をしてる。奈緒ちゃんがそれを見て若干困っている」

「え、そうなのか。えーと、すいません」

「こっちこそ気を遣わせてすみません」

さらっと言う西山くんは、でも否定はしない。本当に結構やきもちやきなんだろう。

「ていうかなんでお前はさらっとこの場に馴染んでるんだよ。俺はもう緊張でさっきから挙動不審なのに」

自分で挙動不審とか言ってておかしい。でもそうだよね、橋本くんは直属上司という以上に真吾さんを御曹司として見ている気がする。

「課長って『飯食いに来い』とかすぐ言ってきてましたからね。俺何度も来てますよ、ここ」

「俺は言われたことねえよ」

カズくんはやっぱり特別扱いなのは間違いない。私じゃなくたって、勘違いしたっておかしくないと思う。

「そういうこと言われなくなったんで、ああ本気なんだなぁって思いましたけど」

え、そうなの。

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