たった一つの勘違いなら。
いつの間にかまた私の隣に戻ってきた真吾さんが、耳元で愚痴るように言う。

「この会、俺にメリットがある気がしないけど」

「私のための会でしたよね?真吾さんに幻滅するような話とかいろいろ聞かなくっちゃ」

「そんなひどいの出てこないよ」

そうかな。女癖が悪いって言っても具体的に何がどう悪かったのかを私は知らない。

「西山に尻尾つかまれるほど馬鹿じゃないし」

ああ、なるほど。そういうこと。別に何に幻滅しても大丈夫ですけどね、今更。

「そうですか。じゃあ聞きたかったことだけ聞いてみます」


西山くんに向き直って質問してみる。

「覚えてるかわからないですけど。去年の9月ぐらいに真吾さんと西山くんが非常階段で話してるところ見かけて、来るまで待ってるからって言ってたんです。8時に来てって。何だったか覚えてますか?」

話を聞いていた西山くんは、途中で何かに気づいたようで一瞬チラリと真吾さんの方に目をやった。

「あった気がしますね。やっぱり飯食いに来いとかだったかな。カレー作りすぎたとか」

へえ、西山くんも嘘が上手じゃないんだなって思った。何か奈緒ちゃんにも聞かれたくないようなお出かけだったんだろう。やだなぁ、男って。

「そうだったかな。俺は覚えてないな」

この人は、部下に押し付けて知らんぷりをしている悪い上司。前に一度聞いた時も覚えてないってしらばっくれてた。

でも奈緒ちゃんが、「わかる。カレーって作りすぎちゃうと困りますよね」と明るく同意しているのでよしとしよう。


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