たった一つの勘違いなら。
どうせバレちゃったんだ、言ってみよう。私は味方ですってわかってもらえば構わないだろう。

「お2人の親密な関係というか。エレベーターで私の頬に触れたのは彼がいたからですよね?」

「そうだったかな。それだけで? ずいぶん妄想が逞しいね」

「非常階段でもお2人の会話を聞きました。カズくんと呼んだ後に、私に気づいて西山と呼び直していらっしゃいました」

「覚えてないな。冗談だったんじゃないかな。それで? 西山が嫌がってる?」

からかうように課長は言う。全く認める気がないような、バカにしたような態度。

「女性とは軽いお付き合いをしているって言うのは、本命の方がいるからかなと思って」

「ふーん、それで本命があいつなんだ。そっちも遊びってことはないの?」

「お2人の仲の良さは信頼感があるものだと思いました。軽くはないと感じました」

いつの間にか意地になったように主張していた。3回も目撃した私に言い訳したって無駄なのにって。

「そういう相手がいらっしゃるのに別の軽いお付き合いを重ねることで、心が埋まるんでしょうか。本心に背を向けて空しくないんでしょうか」

言い募った私に、ため息を吐くように課長が応えた。

「確かにね、俺は埋まらない心の隙間を女性たちに埋めてもらってるんだろうし、西山を挑発するのは好みではある。ただ興味本位でそういうビーエル展開ってのを期待しているならごめんね?橋本さんがそういう子だっていうのは意外だな」

ごめんねと言いながら、最後はうんざりした気持ちを隠さない冷ややかな声だった。

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