たった一つの勘違いなら。

とはいうものの、残念ながら今日は火曜日。

昨日も少しタイミングがずれたのかお会いできなかったし、来週こそはタイミングよく乗りたいなぁ。



と考えながらボタンを押していると、静かなエレベーターホールに軽快な足音が響いてきた。

あれ?このリズムは。

「おはよう、橋本さん。今日も早いね」

「おはようございます、富樫課長。火曜日なのに、珍しいですね」

「ああ、会議じゃなくて使えない部下のフォローなんだ。でも橋本さんに会えたから運がいいな」

これだ。いつだって周りにいる人間の名前を呼び、美しく微笑んでくださる気配り。

「聞こえてますよ」

聞き覚えのあるその声にもう一度振り返ると、やはり富樫課長の直属部下の西山さんだった。

西山和臣さん。
またの名を、カズくん。

富樫課長よりは年下のはずの、こちらもなかなかかっこいい部類の人だ。

長めの前髪を遊ばせている課長に対して、西山さんは短い髪を立ちあげた男らしい雰囲気。

「お前のことじゃないから安心しろ」

「そうですか、それはよかった。おはようございます」

疲れた様子でふてくされ気味の答えだったが、あいさつは私に向けてらしいと気づき慌てる。

「おはようございます。西山さんもご一緒なんですね」

いや、今のは深い意味はない、と心で言い訳した。朝からお二人でご一緒に来られたとか妄想しているわけでは。

「帰ってないんですよ、昨日」

えええ。西山さんのまさかの発言に一気に顔に血が上る。

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