たった一つの勘違いなら。
「あ、いや。そういう色っぽい話じゃなくって終電なくなって会社泊まったっていう。今コンビニ行ったところで」

「いえ、そんな邪推をしたわけでは。あの、すみません」

自分の場違いな反応を謝りながら、やってきたエレベーターに乗り込む。


でもまだ絶対赤い。恥ずかしい。

「ごめんね、橋本さん。朝からうちの部下がセクハラで」

「いえ、そんな」

覗き込むような気配に思わずうつむいたら、私の頬にスッと手の甲で触れて「熱くなってる」と富樫課長が呟いた。



「課長」

上司相手にしてはかなりきつい口調で西山さんが課長をとがめるのと、エレベーターが到着するのが同時だった。

「ごめんね」と私の耳元でもう一度囁いて、二人はエレベーターを降りていく。


無意識に『開』ボタンを押して、去って行く2人を後ろから見つめた。


何か言おうとする西山さんに先回りして

「ネクタイぐらい直せよ」

と課長が彼の首元に手をやる。

「だからそういうのは」

と西山さんが富樫課長に何か文句を言っていて、課長のほうはふざけた態度のまま、ホールの角を曲がっていった。





触れられた頬がまだ熱い。

そして胸はこれ以上ないぐらいドキドキしていた。

恋の予感にではない。この恋はもう、確信。

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