たった一つの勘違いなら。
おしゃれしてきてくれたお礼に御馳走しようと言って、連れてきてくれたのは前回よりも高級な雰囲気のフレンチだった。予約してあるなら別にお礼のはずないのに。

でも富樫課長とこうやって向かい合って過ごすのももう4回目で、意外と緊張しなくなっている自分に驚く。麻痺してしまった感じだろう。

課長も気づいているようで、話かけてくれる態度も前よりくだけている気がする。

「詩織はさ、いろいろと真面目に対応するんだなって思って。散歩ならカジュアルに、デートなら女性らしく。仕事スタイルは法務らしくって感じ?」

「私、新卒で法務配属なんです。ちょっと法律知識があったって、他部署の皆さんの勢いには全然敵わないというか『新人の女の子じゃ話にならない』って扱いだったので、服装ぐらいはって。今はもうただの習慣ですけど」

「男避けって意味は?」

「自意識過剰っぽいですけど、男性と個別で話をすることが多いのでそういう目で見られることもあって。仕事しにきてるんですっていうイメージ戦略もちょっとはありです」

おかげさまで『法務のまじめな堅い女性』という見方が固まってからは、そういうことがなくなった。まあもう新人でもないし、何を着てても変わらないかもしれない。

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