たった一つの勘違いなら。
偽装彼女問題はもちろん内緒にする約束とはいえ、恵理花にはどう言おうかと悩んでいた。

友達に嘘はつきたくないし、騙すことになるのは嫌だ。ギリギリ嘘にはならず、ただ課長のプライバシーがばれないようにと慎重に考えた。



ちょっと相談乗ってよと私を誘った恵理花だけど、一応私に「最近何かいいことあった?」と質問してくれた。実はね、ともったいぶって答える。

「富樫課長と食事をご一緒したの」

「嘘でしょ! 誘われたの? エレベーター?」

「ううん、うちに帰る道の途中で偶然会って。約束してたお相手にキャンセルされたからどうかって」

「なに、なにその夢のような展開。それで?ご飯食べただけ?」

「うん、ごちそうしてもらって。緊張しすぎてよく覚えてないけど、ちょっとお近づきになれた気がする」

「それだけ?もったいなーい!私に代わってくれたらもっと有効活用するのに、そんなチャンス!」

言ってることは全部本当のことだ。恵理花に全て黙ってるのは気が引けたが、これ以上喋ってボロを出さない自信もない。

私のためではなく課長のためだ。

うーん、心の中でも真吾さんと呼んだ方が慣れるのかな。

でもそれは自分が勘違いしちゃいそう。偽装デート中だけ意識して呼ぶほうがいいか。
< 36 / 179 >

この作品をシェア

pagetop